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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)9684号 判決 1966年9月19日

原告 東京繊維株式会社

右訴訟代理人弁護士 渡辺重視

同 高橋武

被告 株式会社第一相互銀行

右訴訟代理人弁護士 平田政蔵

主文

被告は、原告に対し金四一九万一、〇三四円及びこれに対する昭和三七年一二月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、(一) 訴外会社が被告に対して昭和三六年一月三一日現在で(1)定期預金四九七万九、七〇〇円、(2)定期積金三二万一、〇〇〇円、(3)当座預金一万五、五〇七円、(4)普通預金二万四、八二七円の各債権を有したこと、被告に対して同年二月九日付で右債権が原告に譲渡された旨の通知がなされ、そのころこれが到達したことは、当事者間に争いがなく、証人津田久雄の証言により真正に成立したと認める甲第一号証ないし第三号証に同証言及び原告代表者牧野及び本人尋問の結果によれば訴外会社は昭和三六年一月末ごろ倒産し、債権者らの一部が協議の結果訴外会社から売掛債権、預金債権等の譲渡を受けて債権の弁済にあてることとし、同債権者らの合意により原告が委託を受けて本件定期預金等の預金債権の譲渡を受けることとなり、同年二月七日右債権譲渡がなされたことを認めることができる。

(二) 被告は、右債権譲渡は取消されたと主張し、官署作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分は、証人加瀬勇治の証言により真正に成立したと認める乙第一号証によれば、訴外会社代表者加瀬勇治が同年二月一六日付で被告に対して右債権譲渡を撤回する旨の通知をしたことが認められるが、既に債権譲渡行為があった以上その他の取消原因があれば格別旧債権者が譲受人の同意なしに単独で右譲渡行為を撤回することは許されず譲受人たる原告の同意のあったことを認めしめる証拠がないから、右主張は理由がない。

(三) 被告は、前記各預金債権は譲渡禁止の特約が結ばれていたと主張するので、判断するに、証人横塚文彦の証言(第一回)弁論の全趣旨によれば、右主張事実を認めることができるが、右債権譲渡に至る前記のような経過に証人加瀬勇治の証言、原告代表者本人尋問の結果により認められる、訴外会社代表者加瀬らは右債権譲渡を異議なく承諾していた事実を総合すれば、原告ら債権者は右特約の存在を知らず、かつこれを知らなかったことにつき過失はなかったと認めるのが相当である。従って、右主張は採用しない。

二、次に、被告主張の根質権の実行の点につき考えるに、成立に争いのない甲第七号証、証人横塚の証言(第一回)により真正に、成立したと認める乙第二、三号証、証人加瀬勇治、横塚文彦(第一、二回)の各証言、弁論の全趣旨を総合すれば、被告は訴外会社に対して(一)手形貸付による債権として(イ)昭和三五年七月二八日貸付、返済期日昭和三六年一月三一日の約定の金一〇〇万円、(ロ)昭和三五年一〇月一一日貸付、返済期日(イ)と同じ約定の金一五万円、(二)別紙目録記載の約束手形を含む手形割引による債権として合計金一、二〇四万六、六〇〇円の各債権を有し、訴外会社が倒産したので、そのころから右割引手形の買戻を請求していたこと、他方被告は右貸付にさきだち訴外会社との間で現在及び将来にわたり同会社が負担する債務の担保のため前記(1)、(2)の定期預金、定期積金債権につき根質権の設定を受け、公証人宮脇信介の昭和三六年二月四日付の公印ある契約書が作成されたこと、そうして、被告は、原告から前記債権譲渡の通知を受けた後同年二月一六日までの間に右(一)、(二)の債権((二)については、手形買戻請求により発生した債権)と本件(1)ないし(4)の預金債権とを対当額で差引、清算したことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

ところで、被告は、右清算は債権質の実行として取立をなしたものであるから、原告に対抗できると主張するのであるが、その取立の面についてみれば債権質の実行がなされているけれども、質権の設定の対象となったのは、被告に対する訴外会社の預金債権であるから、その取立は同時に自己の債務の弁済であり、結局訴外会社に対する(一)、(二)の債権を自働債権とし、訴外会社の有する(1)ないし(4)の預金債権を受働債権として相殺がなされたにほかならない。従って、右取立は、民法第四六八条第二項に従い自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先きに到来する場合に限り受働債権の譲受人に対抗することができる。(最高裁判所大法廷判決昭和三九年一二月二三日言渡参照)。

そうして、本件についてこれをみれば、被告の訴外会社に対する(一)、(二)の債権の弁済期は右認定のとおりであるところ、<省略>全趣旨によれば、本件(1)、(2)の定期預金定期積金債権の弁済期はすべて前記(一)、(二)の債権より後に到来するものである(B91・R108・R122のリレー定期預金は、満期到来後自動的に継続したものと認められる)ことが認定できるから、被告は右相殺をもって譲受人たる原告に対抗できるというべきであろう。

しかしながら、訴外会社の原告に対する前記債権譲渡が有効であり、その通知が被告に到達した以上その譲渡債権を受働債権とする右相殺の意思表示は、原告に対してしなければ効力がないのであり、証人横塚の証言(第二回)によればこれが訴外会社との間でなされれば足りるものとし前記清算をしたことを認めることができるから、被告のした前記清算(相殺)は、無効のものというほかない。

三、従って、その余の争点につき判断するまでもなく、被告は、原告に対し前記譲受債権及びこれに対する遅滞の日の後の昭和三七年一二月一一日から完済まで年五分の割引による遅滞損害金を支払うべき義務がある。

よって、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容する。<以下省略>。

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